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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)81号 判決

東京都文京区大塚6丁目29番24号

原告

瀬尾弘次郎

同訴訟代理人弁理士

中山輝三

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

岡田萬里

中村友之

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第21254号事件について平成4年2月19日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年11月28日、名称を「自動包装機」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和59年実用新案登録願第179434号)をしたところ、平成元年10月27日、拒絶査定がされたので、同年12月26日、審判の請求をし、平成1年審判第21254号事件として審理されたが、平成4年2月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年3月18日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

巻戻された熱収縮性フィルムの外面の所要箇所に開封用ラベルを貼着すべく自動包装機本体のフレーム上に配したラベラと、該外面に該開封用ラベルを貼着した前記熱収縮性フィルムの内面に任意形状の開封用小孔を形成すべく前記ラベラとフォーマ間に配した小孔形成部材を備えたことを特徴とする自動包装機(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  昭和58年特許出願公告第22411号公報(以下「引用例」という。)には次の発明が記載されている。

「巻戻された包装用フィルムの所要箇所に取り出し口部用のミシン目状切込み部を形成する切込み形成部材と、フィルムに形成した切込み部を被覆するように開閉蓋を貼着するラベル取付機を、ガイド部材及びヒートシーラからなる製袋機の前工程に備えたことを特徴とする自動包装機」(別紙図面2参照)

また、物品を熱収縮性フィルムにより包装する際に、包装体の開封を容易にするために、包装用熱収縮性フィルムに予め開封用切込み部を設けておくこと、あるいは包装後熱収縮させた包装体の包装フィルムに開封用切込み部を設けることは、それぞれ、例えば昭和56年実用新案登録願第180249号(昭和58年実用新案出願公開第84966号公報)のマイクロフィルム、あるいは昭和52年特許出願公開第74494号公報にみられるように、本件出願前に当業者には周知の事項であり、更に開封用切込み部上に開封用の粘着性ラベルを貼着することも、例えば、前記マイクロフィルムにみられるように本件出願前に周知の事項である。

(3)  そこで、本願考案と引用例記載の発明とを対比すると、本願考案のラベラ、小孔形成部材及びフォーマは、それぞれ引用例記載の発明のラベル取付機、切込み形成部材及びガイド部材に相当するから、両者は、巻戻された包装用フィルムの所要箇所に切込みを形成させるための部材と切込み形成部上に何らかのものを貼着するラベラをフォーマの前工程に配置した自動包装機である点で一致し、次の6点で相違する。

(一) 本願考案は熱収縮性フィルムを使用した自動包装機に関するものであるのに対し、引用例記載の発明は使用するフィルムについて何ら特定されていない自動包装機に関するものである点

(二) 本願考案においてフィルムに形成する切込みが開封用のものであるのに対し、引用例記載の発明の装置で形成した切込みが内容物の取出し口用のものである点

(三) ラベラにより貼着されるものが、本願考案では開封用ラベルであるのに対し、引用例記載の発明では取出し口を開閉する蓋である点

(四) 本願考案ではラベラが自動包装機本体のフレーム上に配されているのに対し、引用例記載の発明ではラベラがどこに配されているのか不明である点

(五) 本願考案では小孔形成部材はラベラとフォーマの間に配されているのに対し、引用例記載の発明では切込みを形成する部材はラベラの前工程に配されている点

(六) 本願考案の自動包装機は、包装用フィルムの外面にラベルを貼着し、内面から切込みを形成すべく構成されているのに対し、引用例記載の発明では、包装用フィルムの一方の面から切込みを形成し、その上から切込みを被覆するようにラベラを作動させている点

(4)  そこで、前記相違点について判断する。

a 相違点(一)について

前記のとおり、熱収縮性フィルムで物品を包装する際に、当該フィルムを熱収縮させる前あるいは熱収縮させた後に、包装フィルムに開封用切込みを形成すること、及びこの開封用切込み部を覆うように開封用のラベルを貼着することは本件出願前に周知であり、また切込みを形成した熱収縮性フィルムを加熱してフィルムを収縮させる際に、当該切込みのためにフィルムが破断しやすいことも自明のことであるから、切込みをラベルで覆った後に加熱すべく、包装用フィルムに切込みを形成する手段と、該切込みを覆うようにラベルを貼着するラベラをフォーマの前工程に備えることを特徴とする引用例記載の発明の技術を、熱収縮性フィルムを使用する自動包装機に用いることは当業者が適宜なし得ることと認める。

b 相違点(二)、(三)について

本願考案及び引用例記載の発明は、ともに包装前の包装用フィルムに切込みを形成する点においては軌を一にするものであり、その切込みを包装フィルムの開封に使用するか、あるいは包装された内容物の取出しに利用するかは、包装された内容物に応じて適宜変更し得る程度のことにすぎない。

また、ラベラにより貼着されたラベルあるいは蓋は、ともに切込み部の直上に貼着され、これを引っ張ることによって切込み部が包装フィルムから切離される点においては同一の作用をなすものであって、包装フィルム上にラベラによって貼着されたものが、開封用ラベルとなるかあるいは取出し口の開閉蓋となるかは、包装体の内容物及び切込みの利用形態によって変わってくるものであって、単なる利用形態の相違にすぎない。

c 相違点(四)について

ラベラは包装機に送給される包装用フィルムに対して所定の位置関係にあれば十分であり、どこに配置するかは単なる設計事項にすぎない。

d 相違点(五)、(六)について

本願考案及び引用例記載の発明は、ともに包装前に包装用フィルムに切込みとその直上に貼着したラベルを設ける点において軌を一にするものであり、本願明細書の記載をみても、ラベルを貼着した後に切込みを形成することに格別な意義を見い出せないので、引用例記載の発明において、ラベラと切込み形成部材の順序を入れ替え、切込み形成部材をラベラとフォーマの間に配することも、単なる設計変更にすぎないというべきである。

また、包装用フィルムにラベルを先に貼着すれば、切込み形成は反対の面から行わざるを得ず、相違点(六)は、ラベルを切込み形成部材の前工程に配したことによる当然の結果にすぎない。

以上のとおり、前記(一)ないし(六)の相違点は当業者にとって格別の考案力を要するものとはいえず、また、本願考案のごとき構成とすることによって得られる本願明細書記載の「容器の外表面を損傷せしめることなく収縮フィルムは開封用小孔に沿って確実に切断することができる。」、「開封用小孔を形成する箇所は被包装物の任意選択することができる。」なる効果も、引用例記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得るものと認められる。

(5)  したがって、本願考案は、引用例記載の発明及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

(1)  審決の本願考案の要旨、引用例の記載事項及び周知事項の認定、本願考案と引用例記載の発明との一致点及び相違点の認定は認めるが、相違点に対する判断は争う(本願考案の相違点(一)ないし(四)に係る構成は周知のものであるので、審決のそれらの相違点に対する判断については、取消事由としては主張しない。)。

(2)で述べるとおり、審決は、引用例記載の発明と本願考案とは、技術的課題、構成及び作用効果を異にするものであり、また、周知事項も本願考案とは技術的事項を異にし、引用例記載の発明も周知事項も本願考案の相違点(五)、(六)に係る構成を示唆するものでないにもかかわらず、本願考案が相違点(五)、(六)に係る構成を採用したことについて、これを単なる設計変更にすぎないと判断し、本願考案の進歩性を誤って否定したもので、違法であるから、取り消されるべきである。

(2)  本願考案は、容器を熱収縮性フィルムで包装するに当たり、開封用ラベルを貼着する箇所を容器の蓋側あるいは側壁側の何れでもよいものとして被包装物の商品価値を高めることができる自動包装機を提供することを技術的課題とするものであり、熱収縮性フィルムの外面に開封用ラベルを貼着し、その後にフィルムの裏面に開封用小孔を形成してシュリンクトンネルを通過させることとしたので、開封用ラベルを貼着する箇所は容器の蓋側、側壁側の何れでもよくなり、もって被包装物の商品価値を高めることができたものである。

この包装した容器は、利用時には開封用ラベルを引っ張ることによりフィルムが開封用小孔を境にして破損し、包装に用いたフィルムは二度と使用することはできないものである。したがって、また、本願考案の熱収縮性フィルムとしては比較的薄いフィルムを使用するものである。このように薄いフィルムに開封用小孔を形成することは、フィルムが常時一方向にテンションをかけられていることになり、開封用小孔の周囲が延伸し、開封用小孔の形状が変形する恐れがある。しかし、本願考案では、開封用小孔は、予めラベルが貼着されたフィルムの内面に形成されるので、開封用ラベルに貼着補強され、変形する恐れはないという作用効果も奏する。

なお、被告は、熱収縮性フィルムの厚さは本願考案の要旨ではないと主張するが、本願明細書には被包装物として「カップめん」(補正前は「カップヌードル」)が記載されていることからして、熱収縮性フィルムにより包装されるものは「カップめん」と同一又はその均等物に限定されるから、熱収縮性フィルムは比較的薄いものを使用するものであることは明らかである。

一方、引用例記載の発明は化粧料封入袋の連続製造方法に関する発明であり、開閉蓋の接着材が内容物に影響を与えないような繰り返し開閉可能な封入袋を提供し、あわせて、封緘機能を備えた封入袋であって、消費者が初めて使用するという心証を得られるようなものを提供することを技術的課題とし、開閉蓋を繰り返し使用しても簡単に破損することのないよう、予めアルミ箔をラミネートされたフィルム又は特殊加工したフィルムを用い、これにティッシュペーパー等の化粧料の取出し口用の切込みを形成し、その後開閉蓋を貼り付けるとともにヒートシーラ加工により、該開閉蓋の一端を固着させるものであり、それにより前記の技術的課題に対応する作用効果を奏するものである。

したがって、本願考案と引用例記載の発明とはその技術的課題、構成、作用効果のいずれも異にするものであり、本願考案の相違点(五)、(六)に係る構成を示唆するものではない。

また、審決が掲げた周知事項は、昭和56年当時考案された単なる包装形態に関するものであって、引用例記載のフィルムに比べてフィルムの材質が異なるものであり、また、本願考案のような自動包装機に関するものではないから、これにより本願考案の進歩性を否定できるものではない。

以上のことからして、引用例記載の発明や周知事項をもって、本願考案のように熱収縮性フィルムがロールから巻き戻された後、ラベラによって開封用ラベルがフィルムの外面の所定の位置に貼着され、その後、開封用ラベルが貼着された内面から開封用小孔を形成すべく、小孔形成部材をラベラとフォーマの間に配する構成を採用することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものではない。

しかるに、審決は、これを単なる設計変更(相違点(五))あるいはその当然の結果(相違点(六))にすぎないと判断し、もって本願考案の進歩性を否定したものであり、誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

審決が引用例記載の発明から引用した技術事項は原告が主張する点ではなく、「自動包装機において、巻戻された包装用フィルムの所要箇所に切込みを形成させるための部材と切込形成部上に何らかのものを貼着するラベラをフォーマの前工程に配置する」(審決書2頁19行ないし3頁4行)ことである。そして、開封用切込み部上に開封用ラベルを貼着し、利用時には該開封用ラベルを引っ張ることによりフィルムを開封用切込みを境にして破り、包装品の中身を取り出すことは、従来から行われていたことであり(乙第1号証)、本願明細書に記載された「開封用ラベルの一端をつまんで収縮フィルムから引張り剥離せしめると同時に開封用ラベルの裏面に貼着した略U字状舌片も引張られるため、被包装物の外表面を損傷せしめることなく収縮フィルムは開封用小孔に沿って確実に切断することができる。」という作用効果は当業者がきわめて容易に予測し得るものである。

そして、乙第1号証にみられるような周知のシュリンク包装品の製造法において、開封用切込みの形成位置は、被包装物の形状、大きさ等に応じて、パック前のフィルムの所望の箇所に切込みを入れることにより、どこにでも設定できることであるから、本願明細書に記載された「開封用小孔を形成する箇所は被包装物の任意選択することができる。」という作用効果も当業者がきわめて容易に予測することができるものである。

なお、原告は、本願考案において熱収縮性フィルムは比較的薄いものを使用するものであると主張するが、使用する熱収縮性フィルムの厚さは本願考案の要旨ではない。したがって、原告が主張する本願考案においては開封用小孔はラベルに貼着されて補強されているのでそれが変形するおそれがない旨の作用効果の主張は理由がない。

そして、本願明細書には、自動包装機において、ラベルを貼着した後に切込みを形成する構成としたことによる作用効果については何ら記載されておらず、また、切込みを形成した後にラベルを貼着する構成とすることを積極的に排除する記載もない。

したがって、自動包装の際のラベルの貼着と切込みの形成との作業手順の相違により、即ち、フィルムにラベルを貼着した後に切込みを形成するか、切込みを形成した後にラベルを貼着するかによって、作用効果の点で格別の相違があるとはいえないので、ラベラと切込み形成部材の配置順序をどのようにするかは、単なる設計的な事項にすぎないものである。

したがって、審決の相違点(五)、(六)に対する判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、審決の引用例記載の発明の技術内容及び周知事項の認定、本願考案と引用例記載の発明との一致点及び相違点の認定は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  成立に争いのない甲第3号証(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることを認めることができる。

(1)  本願考案は、開封用ラベルを貼着した熱収縮性フィルムの内側に加熱された小孔形成部材により開封用小孔が形成される自動包装機に関する。

供給コンベア又は送りチェーンアタッチメントにより自動的に供給されるカップめんなどは、フィルムロールから巻き戻される熱収縮性フィルムによってパックされる。

パックされたカップめんをシュリンクトンネル内を通過させることにより、前記フィルムは該カップめんの容器の外形に沿って収縮し、ぴったりとフィットする。

その後、該容器の底壁側のフィルム面に適宜形状の切欠部を形成し、該切欠部を覆うべく開封用ラベルを貼着する。

開封する際は、開封用ラベルの一端をつまみ上げ、引っ張ることによりフィルムは前記切欠部を介して破れることになっているが、強靱性に富む熱収縮性フィルムは簡単に破ることが難しい。

また、熱収縮後のフィルム面に切欠部を形成するのは、容器と該フィルム間に隙間が形成される箇所以外は難しいため、切欠部は前記のような容器の底壁側に限定されている。

しかし、一般に商品は正常の位置においた状態で展示販売されているので、容器の底壁側に開封用ラベルを貼着すると、開封の都度逆さにしないと目的を達成し得ないという欠陥を有する。

本願考案は、前記の欠点を解決するため、開封用ラベルを貼着する箇所は容器の蓋側あるいは側壁壁のいずれでもよいようにして、商品価値を高めることができる自動包装機を提供することを技術的課題(目的)とする(手続補正書別紙1頁15行ないし3頁13行)。

(2)  本願考案は、前記の技術的課題を解決するために、その要旨とする構成(実用新案登録請求の範囲記載)を採用した(手続補正書別紙1頁5行ないし12行)。

(3)  本願考案においては、熱収縮性フィルムの開封用小孔は開封用ラベルが貼着された後に内側より形成されるため、略U字状舌片は開封用ラベルの裏面に貼着した状態にあるので、開封用ラベルの一端をつまんで収縮フィルムから引っ張り剥離させると同時に開封用ラベルの裏面に貼着した略U字状舌片も引っ張られるため、容器の外表面を損傷することなく収縮フィルムは開封用小孔に沿って確実に切断することができ、また、開封用ラベルはシュリンクトンネルを通過する以前に貼着し、続いて該開封用ラベルの裏面に付着している熱収縮性フィルムの内側より開封用小孔を形成するので、開封用小孔を形成する箇所は、被包装物の任意の箇所を選択することができるという作用効果を奏する(手続補正書別紙6頁19行ないし7頁15行)。

2  一方、引用例に審決認定の技術内容が記載されていることは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第4号証によれば、引用例は、名称を「化粧料封入袋の連続製造方法」(1欄1行)とする発明に係るものであるが、発明の詳細な説明には、「本発明は化粧料、薬剤等で特にシート状繊維素材に液体を含浸したり粉末を塗布したりしたものの簡易容器としての開閉蓋付封入袋の製造に関するものである。」(1欄33行ないし36行)、「本発明の目的は、前述のような問題を解決することであり、開閉蓋部の接着剤が内容物に影響を与えないような繰返し開閉可能な封入袋を連続的に生産できる方法を提供することにある。

更に他の目的は、封緘機能を具えた封入袋であって、消費者が初めて使用するという心証を得られるような化粧料封入袋を提供することにある。」(2欄32行ないし3欄2行)、「封入袋の取り出し口を形成するための切離し用切込みは、消費者が封入袋を初めて使用する際に、開閉蓋を開けるとともに切込み部から封入袋の一部が破れるようにするためのものであり、例えばミシン目状に刻印されたものである。消費者が初めて封入袋を使用するとき、切込みから破れた封入袋の一部(切離し部)が開閉蓋の感圧接着剤層に貼着され、そして、切離し部の跡の開口が内容物取り出し口となる。開閉蓋に貼着した切離し部は開閉蓋を閉じると再び取り出し口をぴったり閉塞する。」(3欄16行ないし26行)と記載されていることを認めることができる。

3  原告は、引用例記載の発明と本願考案とは技術的課題、構成、作用効果を異にする等として、審決が本願考案の相違点(五)に係る構成について、これを単なる設計変更であると判断したことの誤りを主張する。

しかし、審決が認定した引用例記載の発明の技術内容並びに前1及び2で認定したところからすると、本願考案と引用例記載の発明とは、ともに、包装フィルムにより被包装物を自動包装する自動包装装置であり、包装する前にフィルムに切込みを形成するための部材と、それを引っ張ることによりフィルムを切込みの部分において破断させるラベルを貼着するための部材を配置する点で一致するものであって、技術的に極めて高い親近性を有するものである。

そして、本願明細書と引用例に記載されたそれぞれの技術的課題及び作用効果の相違する点も、基本的にはその包装フィルムによる包装が、消費者が開封して被包装物を取り出すまでの間の塵埃の付着の防止等を目的とするものか、あるいは化粧料の封入袋として繰り返し使用することを目的とするかの相違によるにすぎないものである。

また、成立に争いのない乙第1号証によれば、審決が周知事項の根拠として挙げた昭和56年実用新案登録願に添付された明細書及び図面のマイクロフィルムは、名称を「収縮フィルムによる包装体」(明細書1頁3行)とし、実用新案登録請求の範囲を「開封方向に引き裂き得る切り込み部を設けた収縮性フィルムにより被包装物を包被し、前記切り込み部上に粘着性ラベルを貼着した収縮性フィルムによる包装体。」(1頁5行ないし8行)とする考案に係るものであるが、考案の詳細な説明に「本考案は収縮性フィルムによる包装体に関するもので、その目的とするところは被包装物全面を包被すると同時に極めて容易に開封することができるようにせんとするところにある。(略)次に第5図乃至第8図に示した本考案の一実施例について詳細に説明する。10は収縮性フィルムで開封方向Aに引き裂き得る切り込み部11をその所定位置に設け、周知の手段で被包装物を包被して熱風で加熱し、第6図の如き一端を非粘着のつまみ部12aを有する粘着性ラベル12を切り込み部11の上に貼着して密封し、第7図に示すような包装体13を形成する。開封する時は第7図のつまみ部12aを引張ると第8図の如く開孔部11aが形成されるので、この開口部11aをきっかけにして密着している収縮性フィルム10を破り、極めて容易に開封できる。(略)なお、切り込み部は開封方向に引き裂きできるようになっていればどのような形状でもよい。」(1頁10行ないし3頁14行、別紙図面3参照)と記載されていることが認められ、本願考案の前記技術的課題及び作用効果と同一の技術的課題及び作用効果が記載されていると認められるのである。

このように本願考案の前記の技術的課題及び作用効果は、引用例記載の発明のそれらと実質的に異ならないものであるばかりか、本件出願前に周知のものであり、当業者がきわめて容易に予測し得るものであり、何ら格別のものではない。

また、本願考案の「開封用ラベルを貼着する箇所は容器の蓋側あるいは側壁側のいずれでもよくする」との技術的課題及び「開封用小孔を形成する箇所は、被包装物の任意の箇所を選択することができる」との作用効果についてみても、前掲乙第1号証の考案においても、「切り込み部は所定の位置に設け」ることができるものであり(包装前に切り込み部を形成する以上、その箇所は容器の底部等、容器とフィルムとの間に間隙がある箇所に限定されないことは明らかである。)、そのような技術的課題や作用効果はこの考案の前提として、当然のことと捉えられていることが認められるのである。

したがって、本願考案の前記の技術的課題及び作用効果も当業者がきわめて容易に予測し得るものであり、何ら格別のものではない。

そして、本願考案の前記の各作用効果は、本願考案が相違点(五)に係る構成を採用することにより奏せられるものではない。

まず、前記の「開封用ラベルの一端をつまんで収縮フィルムから引っ張り剥離させると同時に開封用ラベルの裏面に貼着した略U字状舌片も引っ張られるため容器の外表面を損傷することなく収縮フィルムは開封用小孔に沿って確実に切断することがでる」という作用効果は、フィルムに開封用小孔が形成され、同所に開封用ラベルが貼着されていることによる作用効果であり、開封用小孔の形成と開封用ラベルの貼着の手順の前後を問うものではないことは明白である。

次に「開封用小孔を形成する箇所は、被包装物の任意の箇所を選択することができる」との作用効果についてみても、これは、被包装物を包装する以前に開封用小孔が形成されていることによる作用効果であり、開封用小孔の形成と開封用ラベルの貼着の手順の前後を問うものではないことは明白である。

なお、原告は、本願考案の熱収縮性フィルムは比較的薄いフィルムを使用するものであり、このように薄いフィルムの外面に開封用小孔を形成することは常時フィルムが一方向にテンションをかけられていることになり、開封用小孔の周囲が延伸し、開封用小孔の形状が変形する恐れがあるが、本願考案では、予めラベルを貼着してからその内面より開封用小孔を形成するため、開封用小孔は開封用ラベルに貼着補強されているので、開封用小孔は変形しないという作用効果も奏する旨主張する。

本願考案はシュリンク包装をするものであるから、技術常識上、その熱収縮性フィルムは薄いものを使用するものであると認め得るとしても、それにラベル貼着前開封用小孔を形成すれば、当然に開封用小孔の形状が変形して不都合が生じると直ちには認めることはできず(それを肯認できる証拠は存在しない。)、また、本願明細書にはそのような作用効果は記載されておらず、当業者にとって自明のものともいえないから、その点をもって本願考案の作用効果が格別のものであると認めることはできない。

以上のことからすると、本願考案が本願明細書に記載された技術的課題を解決し、本願明細書に記載された作用効果を奏するためには、本願明細書に記載された従来技術においては、熱収縮性フィルムにより包装した後切込みを形成して開封用ラベルを貼着していたのに代えて、切込み形成と開封用ラベルの貼着を包装の前に行うようにすることで必要にして十分であり、切込み形成と開封用ラベルの貼着の手順の前後は何らその作用効果に影響するものではないというべきである。

以上のことからすると、審決認定の引用例記載の発明の「巻戻された包装用フィルムの所定箇所に切込みを形成させるための部材と切込み形成部上に何らかのものを貼着するラベラをフォーマの前工程に配置した自動包装機」という本願考案と共通する技術事項を基として、引用例記載の発明を熱収縮性フィルムを用いる自動包装機に適用する等相違点(一)ないし(四)に係る構成を採用するに当たり(なお、本願考案の相違点(一)ないし(四)に係る構成は従来周知の技術であること原告の認めるところであり、審決の相違点(一)ないし(四)に対する判断については、取消事由として主張されていない。)、切込み形成部材とラベラの配置の前後関係をどのようにするかは、当業者が適宜に選択できる設計事項というべきである。したがって、審決が本願考案の相違点(五)に係る構成について、これを単なる設計変更にすぎないと判断したことに誤りはない。

そして、包装用フィルムを先に貼着すれば、切込み形成はその反対の面から行うことになることは当然のことであるから、相違点(六)は、ラベラを切込み形成部材の前工程に配したことによる当然の結果であることは明らかであり、審決の相違点(六)に対する判断に誤りはない。

4  以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張は理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

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